63歳の誕生日から8日が過ぎた5月第3火曜日の社長室。
この日のお礼状を書き上げ、私は窓の外に目をやった。
18時49分まで顔を出していた太陽は沈み、その光は夜の灯りへと変わっていた。
・・・今朝、テレビをつけると、『今年の5月は異例の暑さです!』と、気象予報士の女性が力強く言っていた。
また、テレビの取材を受けたフラワーパークの園長は、『いつもは大きな花をつける種類のバラが、暑さのせいで、小さく萎(しぼ)んでしまった。』と、残念そうだった。
私も前日のラウンドで強い日差しを浴びて、腕や顔が火傷(ヤケド)をしたように熱くなっていた。
それはさておき。
・・・私の亡き母・シゲ子は、この季節になると鼻水やクシャミが止まらなかった。
『あたしは、お前を産んでからは、毎年5月になると、どういうわけだか鼻風邪をひくんだよ。』と言っていたことを思い出す。
『お前を産んでから』というフレーズは疑わしいが、どんなに気を付けていても、初夏と共に訪れるその症状は決して彼女を逃さなかった。
そうだと信じていた彼女は、市販の風邪薬を服用していた。
63年前の初夏に発症したと主張する彼女の『鼻風邪』は、その後『花粉症アレルギー』と診断され、その薬も変わった。
それから30年後。
私にも同じ症状が始まった。
私の場合は彼女の風邪がうつったのではなく、最初から『花粉症アレルギー』であることが分かっていた。
特にゴルフの時が要注意である。
太陽の光は日焼け止めクリームと帽子で防ぐことが出来るが、花粉は手強い。
一日中芝生の上で胸いっぱいに花粉を吸いこんだあとでは、アレルギーの薬を一粒や二粒飲んでも埒(らち)が明かない。
まさに『鼻風邪』状態である。
しかし、初夏のラウンドは亡き母を思い出せる、私にとっては欠かせない良い時間と場所なのである。
・・・窓を開けると、日焼けした顔と腕に夜の冷気が心地良かった。